爪先は前に向けておく

人生を肯定したい奈良大1回生のブログ

入学式と奈良でいちばんホットな出土品

4月2日、奈良大学・大学院の入学式があった。好天に恵まれ、コートがなくても十分に暖かい。正門前の看板と写真を撮り、講堂へ。講堂は体感銀劇くらいの広さであった。学部学科ごとに座るエリアが分かれていて、史学科はセンターブロック最前列であった。観劇でこのお席がご用意されたら向こう3年は語り継ぐであろう良席である。5月に観劇する予定のミュージカルなどS席にも関わらず3階席の5列目という、観劇前から見えないことが確定しているお席だというのに。式自体に特筆すべき点はなく、開式の辞にはじまり、入学許可宣言、校長と理事長の話、在校生代表による挨拶などがあって閉式。校長と理事長の話も学校の沿革や奈良という地の素晴らしさ、大学生活での心構えを語るといったオーソドックスなものであった。毎年話題になる某大学の学長式辞のようなインパクトはないが、話がそう長くなく簡潔なのはありがたい。開式前に所要時間約40分との案内があったが、実際は35分程度で終了。この分なら書類配布などがあっても昼前には帰れるな、と思ったら、休憩を挟んで雅楽研究会による雅楽の演奏があるという。さすが奈良。演目は「迦陵頻」(かりょうびん)、迦陵頻伽という仏教において極楽浄土にいるとされる霊鳥に由来するらしい。雅楽の演奏に加えて霊鳥に扮した舞があり、素人にも見応えがあった。その後学部ごとに教室への案内があり、配布物を受け取り説明を受けていたら12時半を回った。教室を出て噴水前の広場を歩けば、あちこちでサークルのビラを手渡され、大学に来たな、という実感が湧いた。いくつか気になっていたサークルのビラも受け取ることができたのだが、気になっていた仮面ライダー研究会と現代短歌会の勧誘には出会うことができなかった。明日以降出会えるだろうか…

 

学食で昼食を済ませ、一旦家に戻って着替えた後、橿原考古学研究所附属博物館へ向かった。昨年度の富雄丸山古墳の調査で出土して以来、初めて一般公開された蛇行剣を見るためだ。

 

https://www.city.nara.lg.jp/site/press-release/201144.html

 

近鉄畝傍御陵前駅から徒歩5分ほど、博物館へ着くとソアリンのオープン当初みたいな行列が目に入った。これなんと蛇行剣の観覧待ち列で、待ち時間は2時間らしい。2時間待ちと聞いて帰っていく客もいたが、折角ここまで来たのだからと並んでみる。私は博物館や美術館が混んでいたら嬉しくなってしまうタイプの人間だ。近年資金繰りに苦しむ博物館が増え、昨年にはかの国立科学博物館クラウドファンディングを実施したのは記憶に新しい。そんな中で多くの人が博物館を訪れる、ということは喜ばしいことだろう。勿論、いち観覧者としては空いているに越したことはないので、ガラガラの博物館も大好きだ。

 

閑話休題。待機列はゆっくりだが動いていたので、1か所に立ちっぱなしのストレスはなかった。スタッフは多く、案内が丁寧である点も好ましい。2時間待ちとのことだったが、1時間20分ほどで蛇行剣のある特別展示室へと辿り着いた。特別展示室内は入場制限が行われているため混雑することはなく、確実に蛇行剣を見ることができる点で勝たシステムだと思う。順路に従って展示室内へ入ると、まずは発掘作業の過程を記したパネルや蛇行剣のX線画像を見ることができる。出土した蛇行剣をガーゼやウレタンで保護し、地面から切り離す作業は相当な慎重さが要求される作業であることがわかる。X線画像は14分割して撮影したものをひとつに合成しているのだという。確かに、2メートルを超える長さの剣を一度にX線撮影するのは難しいだろう。また、剣身に付着した鞘の木材をCT装置を用いて木目を観察することで、ホオノキを用いたものだと特定したという。考古学は地道で緻密な作業によって成り立っているのだな、としみじみと感じた。

 

そうこうしているうちに蛇行剣の展示されているガラスケースの前へ。第一印象としてはとにかく長い。東アジア最大と言われるだけあって、朽ちた細身でありながらも迫力があった。特徴のひとつである剣身の蛇行は案外目立たない。歩きながら見るとうねっているのがわかる、と展示室のスタッフからの案内があったのだが、なるほど、剣身にそって歩きながら見ると確かに湾曲している部分があることがよくわかる。脊椎の生理的湾曲を想起させるカーブが、しかし古代人の手によって作られた人工物であるという事実は大変に興味深い。当時の高い技術を伺うことができるし、これほどの剣とともに埋葬された人物とは何者であったのか想像を掻き立てられる。蛇行剣や富雄丸山古墳の調査によって、「謎の4世紀」が謎ではなくなる瞬間を見ることができるかもしれないと思うとわくわくが止まらない。

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橿原考古学研究所附属博物館は本来ならば午後5時に閉館となるのだが、蛇行剣の観覧希望者が非常に多かったために開館時間を午後5時30分までに延長する措置を取ってくれた。お陰で、駆け足ではあるものの常設展「大和の考古学」も観ることができた。


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巨大な円筒埴輪や


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奈良らしい鹿型の埴輪もあり、常設展だけでも十分な見応えがあった。また今度ゆっくり観に来たいものだ。  



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埴輪と土偶のぬいぐるみのガチャガチャがあったので回してみた。かわいい。ミュージアムショップも充実しており、特に古代や刀剣に関する書籍が多く取り揃えられていて、刀剣ファンとしては心惹かれるものがあった。

 

そんなわけで4月2日は入学式のち博物館という盛りだくさんな1日だった。今これを書いているのは3日後の4月5日である。入学式の翌日から始まったオリエンテーション履修登録の準備に追われ、なかなか書いている時間がなかった。嘘、時間はあったのだけど寝落ちたりだらけたりしていた。奈良のこと、大学のこと、ひとり暮らしのこと、自分の精神のことなどブログに書きたいことはまだ山ほどあるのだが、来週から授業も始まるのでなかなか書く時間が作れないかもしれない。このブログの第一の目的は生活の質の向上であるから、書かないことによってそれが目指せるのなら書かないことを選択するべきであろう。しかし私にとって書くことはもはや生活に欠かせない動作のひとつであるから、これからものろのろと書いてはひっそりネットの海に放流していくことになると思う。