爪先は前に向けておく

人生を肯定したい奈良大1回生のブログ

都ぞ春の錦なりける 法華寺門跡ひな会式

週末、法華寺門跡に行ってきた。近鉄新大宮駅から徒歩20分ほど。長袖一枚でも歩くと汗ばむほどの気温で、雲はあるが陽射しも強い。日傘を持ってこなかったことが悔やまれた。今回のお目当てはひな飾りの起源とも言われる法要、ひな会式(ひなえしき)。開基である光明皇后の御忌法要に55体の善財童子像を祀る行事だ。善財童子とは仏教において理想的な修行者とされている人物で、様々な指導者を訪ね歩き最後には悟りを開いたとされている。その人形が2段にわけて飾られているのが、ひな祭りにおけるひな壇の原形と言われているらしい。

参考

https://www3.nhk.or.jp/lnews/nara/20240403/2050015810.html

 

入口の門で拝観料を払い境内には入れば、文字どおり満開の桜が出迎えてくれた。

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まずはひときわ大きな建物・本堂へ向かった。ここで55体の善財童子像と、特別公開中の本尊、十一面観音菩薩立像を見ることができる。尼僧による読経や散華も行われたらしいのだが、私はタイミングが合わず見ることがかなわなかった。

 

本堂の正面には聖武天皇光明皇后の位牌があり、その手前には55体の善財童子像が2段に飾られている。そして最奥にあるのが国宝の十一面観音菩薩立像。本堂内部は撮影禁止だったため、先ほど貼っつけたNHKのニュース映像を参照してほしい。

 

善財童子像は木製や陶製で、片足を上げたり、首を傾げたりとユーモラスな仕草がかわいらしい。その奥にはご本尊である十一面観音菩薩立像が。意外と小さい、というのが第一印象だった。約1メートルほどと小ぶりなお姿である。光明皇后が蓮池を渡る姿を写したものと伝えられており、蓮の花や葉を後光のように配した光背(こうはい)は珍しいものだという。遠目からでもふくよかな顔つきと曲線的な身体つきが見て取れた。神々しさと人間味を絶妙なバランスで兼ね備えた観音菩薩像だと感じた。

 

本堂内には室町時代文殊菩薩立像や天平時代の重要文化財の仏頭もあり、そう広い空間ではないが見応えがあった。お守りやお札の販売、御朱印の受付も本堂の中で行われている。

 

続いてこちらも特別公開中の名勝庭園へ向かった。江戸時代初期に作られたという庭園は国史跡名勝に指定されているという。5月にはコの字形の池に咲き誇る杜若が見られるそうで、きっとその頃が一番の見頃なのだろう。今の時期、苔むした庭園は緑に包まれ、咲き残った椿が唯一の彩りであった。
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本堂を挟んで名勝庭園の反対側にあるのは光月亭奈良県の指定文化財で、18世紀に建てられた庄屋の家屋を移築したものだという。藁葺き屋根と土壁がいかにも江戸時代を思わせる。建物内は休憩所になっており、無料でお水やお茶を頂くことができる。この建物は今も現役なのだ。
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土壁も屋根に葺かれている藁も厚みがあり、造りの良さを伺うことができる。かつての時代の生活の息吹を今に伝える建物は、信仰の場であった寺院とは異なる趣を感じさせた。

法華寺門跡には他にも、四季を通じて様々な花に彩られる華楽園や、光明皇后が作ったとされる日本最古の風呂である浴室(からふろ)、さらに、今回は見ることができなかったが国宝の絹本着色阿弥陀三尊を安置する慈光殿など、様々な見どころを備えている。桜の盛りはそろそろ過ぎるがこれからは藤や杜若、梅雨時期には紫陽花、夏には蓮など、四季折々の花々を楽しむことができるのも大きな魅力だろう。

 

見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける

(古今和歌集・春歌上・素性法師)

 

かつての都は今、花盛り。春の錦の中で日々を送れる幸せを噛み締めている。